日本の物流において、重要な役割を果たしているのがトラック輸送です。しかしそのトラックを運転するドライバーが不足している状況が続いています。かつては「稼げる」仕事のひとつだったトラックドライバーはなぜ不足をきたしているのか、それが日本経済に深刻な影響を及ぼすのはなぜか、検証していきます。
「募集しても集まらない」トラックドライバー
日本の経済が好調だった頃、「トラックは稼げる」が常識でした。ある程度キャリアを積んだドライバーは、より高給を求めて会社を移籍しておカネを稼いでいたのです。
筆者は、「当社のドライバーがイタリアの超高級車を買った」という運送会社の広告を自動車雑誌で見た覚えがあります。「それだけ稼げる」という訴求で、ドライバーの確保を狙ったものでしょう。
しかし、今はその影もありません。
仕事は増えているのにドライバーが足らず、自社のトラックを遊ばせたまま傭車(下請け、外注ドライバー)に依頼せざるを得ません。これは本末転倒というか、明らかに異常事態です。
自社のドライバーには仕事がなくても給与を払わざるを得ず、傭車のドライバーにも報酬を渡さねばなりません。これでは運送会社事態が疲弊してしまいます。
ドライバーの募集を行っても反応がない、応募者のレベルが下がっている、未経験の高齢者が多い、働く意欲が少ない……等々の声を耳にします。
中小の運送会社では、新規の受注を断るところも出てきていますし、人手不足倒産に至る会社も見られます。
ではなぜ、このような事態を招いてしまったのでしょうか。
ドライバー不足の理由
長時間労働で低賃金
他の産業に比べ、長時間労働でありながらも低賃金なのが運送業界です。バブル崩壊後に規制緩和が行われ、ドライバーが供給過多になりました。そのため賃金の低下が起こりました。長時間労働はいっこうに改善されず、賃金が下がるのみという状況が続いています。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、運輸業の年間残業時間は1人あたり平均396時間。全産業平均の2.5倍にも及びます。また月給は32万3600円で全産業平均より1万円安く、年間賞与額は36万9400円と、全産業平均平均の半分以下です。
現場でのきつい荷役作業
ドライバーと言えどもトラックを運転しているだけでよい、ということではもちろんありません。倉庫での品出し、荷物の積み下ろしなどの荷役作業も受け持つケースが、特に近距離輸送ドライバーの場合は多いのです。しかもそれらはいまだに人力で行われることも普通にあります。時間も当然かかります。
若者の車離れ
ドライバーを志した理由として、過去には「車の運転が好き」という項目が上位に来ていました。しかし、しばしばニュースにもなるように、近年は若年層の車離れが進んでいます。車とはもはや趣味やステイタスシンボルではなく、単なる移動手段に過ぎない存在です。好きだから、とドライバーを志望する人々が減っているのも、若年層がこの業界に入ってこない原因です。
ドライバー不足はロジスティクスの破綻をきたす危険性が
貨物トラックの任務は、荷物をA地点からB地点に輸送するだけではありません。
現代の物流、つまりロジスティクスの重要要素に組み込まれているのがトラックです。ロジスティクスとは元来「兵站」の意味で、前線に弾薬や糧食をいかに効率的に輸送するかを科学的に追求するもの。これが物流の分野に援用されて、より戦略的な性格を持ちました。
Wikipediaによると、
ロジスティクスとは
サプライチェーンプロセスの一部であり、顧客の要求を満たすため、発生地点から消費地点までの効率的・発展的な「もの」の流れと保管、サービス、および関連する情報を計画、実施、およびコントロールする過程である。ロジスティクスは物流において、生産地から消費地までの全体最適化を目指すものである。
このロジスティックスのプロセスが、日本の経済を支えていると言ってもよいでしょう。
しかし、実際に物を動かす役割を担うトラックが、ドライバー不足によって動かないとなれば、たちどころにロジスティクスに支障をきたします。
生産原材料が工場に届かず、工場から製品を出荷することができず、顧客からの注文を届けることができなくなります。
サプライチェーンを「動脈」と呼ぶこともありますが、まさにこの中の血流が滞ってしまい、日本経済全体が機能不全に陥ります。
身近な例で言うと、ネット通販で注文した品物が届けられない可能性もあります。
宅配便最大手のヤマト運輸では増え続ける荷物量が重い負担となり、労働組合は荷物量の調整を会社側に訴え、会社側もこれを容れたというニュースが流れました。
ちなみにヤマト運輸ではamazonの取り扱いが4割という意見も聞かれます。
このままだと「送料無料」「翌日配送」がなくなるかもしれません。
ドライバー不足解消のための、3つの方策
では、この状況を改善するためにはどのような策を講じればよいのでしょうか。
1.労働量と賃金体系を見直す
「仕事はきついが稼げる」というかつてのドライバーの給与額に戻すことが最もわかりやすい解決策です。しかし、各事業者では最大限のコスト削減をはじめとする経営努力はやり尽くしています。
そこで、荷主企業への取引条件の見直し提案が重要となります。運賃の値上げ以外にも、長時間労働・過重労働の原因となる積み込み積み下ろしなどの荷役作業の軽減、指定時間を守れない場合のペナルティーの軽減など、説明を尽くし理解を求めることが大切です。
2.ドライバーのネットワークを利用する
ある運送会社では、休眠している車両を「一人親方」的な自営業ドライバーに働きかけ、彼と付き合いのある同業ドライバーたちに乗ってもらうことに成功しました。カーシェアリングのように休眠車両を活用することで、稼働率を上げたのです。
このように、ネットワークや口コミを活用してドライバーを確保する手段は有効です。傭車を依頼していた会社よりも、一人親方を狙う方が確実です。
3.募集広告の見直し
ドライバー不足ではありますが、優秀なドライバーがまったくいないというわけではありません。現状への不満を抱きつつ、ドライバーを続けている優秀な人材は必ずいます。その人たちに、あなたの会社の優れた点を届けるための方法を見直してみます。要するに、求人広告の見直しです。
従来の求人広告では伝えきれないところに届かせるには、新たな広告手法が必要です。ネットであらゆる情報を探す時代に、いつまでも紙媒体に頼っていていいのでしょうか。また、ネットの求人サイトに掲載したとしても、その中での競合が発生します。目に留めてくれなければ、おカネをドブに捨てるようなもの。
以下で紹介している書籍で詳しく解説していますので、まずは、業界の真実を把握してください。