「医師不足」とよく言われます。特に地方の病院で医師が不足し、地域医療の危機も叫ばれています。
しかし厚生労働省の調査によると医師の総数は増えているのです。
ではなぜ、医師は増えているのに、医師不足と言われているのか?
その原因は、国の医療政策と深く関わっていました。
OECD加盟国の中で最低レベルの医師不足
日本は医師不足であることが指摘されていますが、厚生労働省の調査では医師免許を取得している人数は増えています。
しかし、これは数字のマジック。
医師免許を取得していても厚労省の医系技官や現役を退いた医師、法医学者など実際の医療行為を行わない人数も含めているからです。
OECD(経済協力開発機構)が実施した人口1000人当たりの医師数の国際比較では、OECD加盟国中最下位のトルコとほぼ同等という結果が出てしまいました。OECD平均値の3.1人を、大幅に下回っています。
日本の医師数は世界標準の3分の2に過ぎず、現役で働いている医師数で見るとOECD加盟国の中、実質最下位という指摘もあります。
東京や大阪などの大都市で生活している方は実感がないかもしれませんが、地方へ行くと医師不足は深刻な問題です。
都道府県別の医師数を調べると、最下位は埼玉県(これは意外な結果です)。10万人当たりの医師は146.1人と世界標準の2分の1にも満たない数字です。
また、日本の10万人当たりの医学部卒業者数は6人であり、先進国の中で最低レベルにあります。さらに、2012年の調査では日本の教育機関への公的支出の割合は、対GDP比で3.5%。スロバキアと並んで加盟国34か国中で最下位でした。
医師不足の原因は政策にあった
医師の数については、時代を遡ってみると実に紆余曲折があります。
1970年代のはじめ、田中角栄内閣の時代には医師不足を解消するため一県一医大構想を打ち出し、すべての県に医大を設置しました。
しかしその後、医療費増加の問題が浮上し、医療費削減のために医師の数を増やさない方がよいという考えに落ち着きました。
そして2007年には医師が過剰になるという予測の元に、医師数の抑制方針を1982年に閣議決定しました。(2007年には定数が81年の8300人から2007年には7700人に減りました。)
地方の医師不足が深刻となった根本的な原因
また、2004年に導入された「新臨床研修制度」により、新卒の医師は自由に研究先の病院を選べるようになりました。
これまで、大学病院の医局の指示で大学病院や系列の地方病院に派遣されていたのですが、それを離れ、大都市の大手私立病院を選ぶケースが増えました。
その方が最新の設備や技術に触れることができるからです。
大学病院としては貴重な戦力が減ってしまったのですから、その分地方病院の医師を引き上げざるを得ません。
そして地方病院は急速な医師不足に陥ったわけです。
今までは医局のコントロールによって大都市への集中が抑制されていたのですが、それが取り払われたことが招いた結果です。地方病院の医師は激務に耐えかねて離職者が相次ぎました。
厚労省(当時は厚生省)の迷走した方針と言ってもいいでしょう。
産科医と小児科医が目立って不足している理由
医師不足は、地方だけにとどまりません。各診療科のうち、特定の診療科で医師不足が顕著となっています。
それは、産科と小児科です。
産科は、いつ赤ちゃんが生まれるかわからず、夜間の呼び出しも頻繁です。
小児科は、子どもの急患が多いため勤務時間が長くなりがちです。
さらに、近年の医療事故に対する訴訟が増加しているのも原因です。
特に出産に伴う訴訟。母子共にさまざまな危険が伴います。
しかし日本の産婦人科の医療技術は世界でも高水準ですから、誰もが無事出産でき事故が起こることはほとんどないという意識が普通になっています。
従って、万一事故が起きた場合は「医療側の責任」として訴訟に発展することが多いのです。
2004年には福島県の病院で出産時に女性が死亡してしまい、産婦人科医が業務上過失致死で逮捕されるという事件も起きています。
また、子どもの数が減っている現代、親は自分の子どもをとても大切に育てています。それが行き過ぎ、医療現場のちょっとした言動や診察時の医師の態度などに過敏なまでのクレームを付ける場合もあります。
医療訴訟の可能性と、モンスターペアレントからのクレーム。さらに長時間勤務が加わり、この2科の医師数は減る一方なのです。
医師不足の解決には何をすればいいか
医師不足は、私たちの生活にとっても大変深刻な問題です。当然のことながら解決策は今までいくつも模索されてきました。
現状提案されている主な施策
- 国公立病院への独立採算制の押し付けをやめ、産科・小児科をはじめ地域医療での役割が果たせるようにする。
- 医師数をOECD諸国平均水準まで増やす。削減した国立大学医学部の定員をもとにもどす。
- 女性医師が働きやすい労働環境をつくる。
- 産科・小児科の診療報酬を緊急に引き上げる。
- 看護師・助産師などを増員し、医師の過重負担を軽減する。
- 医療事故の原因を客観的に究明する第三者機関や無過失補償制度を創設する。
- 以上の施策実行のために、医療費総枠(診療報酬)を引き上げる。
最後の「医療費総枠の引き上げ」は、イギリスが行い効果を上げています。
イギリスでもむやみな医療費抑制策が医療荒廃を招き、その改善に日本より早く着手したのです。
また、厚労省もここへ来て医大学生の定数を引き上げる方針を採っています。2013年度ですと、学生定数は9,000人を超えるところまで来ています。
医療行政が医師不足の解決に向けて手を打っているとは言っても、その効果が現れ始めるまでにはまだ時間がかかります。
差し迫っている問題として医師不足を解決するにはどうしたらよいのでしょう。
さいたま市の小児救急の解決事例
勤務時間が長くきつい勤務と言われている小児救急の解決事例では、さいたま市の施策が挙げられます。
さいたま市は100万人都市でありながら、22時から朝6時までの深夜帯の小児救急対応は大宮区にある総合病院の1個所に集約しています。
ここに集中させてしまえば、小児科医の数を確保することができ、小さな医療施設で24時間対応するよりもはるかに負担も軽減できます。
医師専用の求人サイトに登録しても応募が来ない場合の対策
医療業界で増えているのが、医師に特化した求人サイトです。
「医師 求人」で検索すると検索結果にずらっと求人サイトが並びます。
医師不足が深刻な訳ですから、当然、医師を募集している病院はこぞって求人サイトに登録します。
すると、ここには、競争の原理が働きます。
求人サイトには、同エリアの病院からの求人情報がずらっと並んだ中に、あなたの病院の求人も入るわけです。
その中で勝ち残らなければ、求人への応募はありません。競合は非常に多いと考えなければなりません。
もし、これらの求人サイトに一通り登録しても一向に応募が来ない場合、別な方法を考えなければなりません。
医師向けの求人方法は何も求人サイトに限った話ではありません。
他にももっと有効な手段は存在します。
まずは、以下で紹介されている書籍をご覧になっていただき、その手法がどんなものかを把握していただければと思います。