あなたが企業採用担当者だったら、ハローワークの求人票を書いたことはあるでしょう。
厚生労働省が定めた申込書に仕事内容の他、賃金や就労時間、休日数などを詳しく記載します。
求職者に誤解が生じないよう記載方法は厚労省が指導しています。
ところが、「求人票と実際が違う」という苦情が多く寄せられています。
求人票を巡るよくある苦情
- 基本給30万円と書かれていたが、それは残業を60時間した場合の金額だった。
実際の基本給は13万円だった。 - 月平均残業時間20時間と書かれていたのに実際は付134時間だった。
- 正社員での募集と書かれていたが、実際には契約社員だった。
- 昇給は年10000円とのことだが、翌年そんな話は一度も起こらなかった。
- 社会保険完備とあったが、そんなものははじめから無かった。
つまり法律違反。 - 週休2日制と謳っていたが、実際に休めるのは月に3日程度。
残業代や休日出勤手当もない。 - 1年後店長へ昇格とあったので1年経って会社に話をしたらそのレベルにないと言われ、もう1年ヒラで働いた。
さらに1年後に再び店長の話をしたら首にすると恫喝を受けた。 - 国家資格の手当が付くとあったのに、もらった給与には加算されていなかった。
こんな事例は枚挙に暇がありません。
厚労省では、平成24年度から全国のハローワークに寄せられた求人票に関する苦情の統計を取っています。
24年度は7783件だった苦情は、翌年には9380件に増加しました。
このうち約4割で賃金や休日取得など求人票と異なった記載がされていて、まさにブラック企業の求人場所の態を示していました。
求人票に虚偽記載が蔓延する理由
いったいなぜ、求人票はこんな状況になってしまったのでしょう。
理由は2つあります。
ひとつは競合の中で目立つため。もうひとつはハローワークという求人媒体のため。
以下、その理由を詳しくひもといていきましょう。
理由1:よりよい条件を出せば人が集まるから
理由の一つとしては、同じように求人をしている企業の中で、よりよい条件を出せば人が集まるからです。
だから、実際より高額な給与、手厚い福利厚生、よい労働環境を謳う。
同じ職種で比べた場合、働きやすくて高給な方を選びますよね。
当然の心理です。
つまり、アラを隠すための厚化粧を施し、牙や爪を巧妙に隠した魔女が、求人票というお城の窓から魅力的に手招きをしているわけです。
それに引き寄せられた求職者がふらふらっと入っていき、酷い労働環境の元で不満や絶望をかこちながら働いている図式です。
理由2:求人票の内容に虚偽があったとしても、その企業には非がないから
ここで疑問に思うことがありますね。
そんな嘘を求人票に書いて、罰せられないのか、と。
ハローワークや求人誌に掲示された求人票の内容に虚偽があったとしても、その企業には非がないとされているのです。
まさか、と思うでしょう。
実は本当なんです。
これが、求人票に虚偽記載がはびこる理由の二つ目。
ハローワークは厚労省の機関です。
厚労省のウェブサイトには、こんな文言が書かれています。
「求人誌を見て就職しましたが、求人誌に書いてあった給料や勤務時間などの条件と実際の条件が違っていました。これは労働基準法違反ではないのですか」
という質問に対して、
「労働基準法第15条には、労働条件の明示が定められていますが、この条文で言う労働条件の明示とは労働者個々人に対して書面で明示される労働条件のことです。つまり、求人誌やハローワークに掲載されている求人票はあくまでも募集の際に提示する労働条件の目安であり、労働基準法第15条で定める労働条件の明示には該当しません。」
こんな見解を厚労省が出しているのです。
これを解釈すると、「求人票の内容と多少異なっていたとしても構わない」というわけですよ。
「労働条件の明示」が判断の基準になっていますので、本来なら求職者が面接できちんと訊くべきです。
そうは言っても、なかなか切り出せないものです。
曖昧にしたまま採用して業務に就き、求人票との落差に気付くわけです。
職業安定法65条には「会社から直接提示された条件に反している時のみの罰則」と規定されています。
「虚偽の広告」をしたり「虚偽の条件」を示して「労働者の募集」を行った者は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられるというものです。
でも、これが抑止力になっているとはとうてい思えません。
労働条件の明示がいつなのか、を明確にしておく必要があります。
求職者から言いにくければ、やらなければいけないのは、求人をしているあなた。
面接の時や最終決定の段階で明示してください。
しかしさすがにこれは実態と乖離していると実感したのか、厚労省が重い腰を上げ、2016年の秋には労働基準法改正で罰則規定が設けられるかもしれません。
そうなると、状況は少しは変わってくるでしょう。
正直な記載内容はホワイト企業の証に
求人票の虚偽記載は、いけないことだとは頭でわかっていても、やはりハローワークや求人誌の中で埋もれず、競合よりもいい会社と思ってもらうためには、どうしても「盛った」求人票を書きたくなります。
さらに求職者側の常識として、求人票は虚偽記載されているものだと思われています。
最初から眉に唾を付けられてしまうのです。
虚偽記載にクレームを付けても雇用側が強気だったのは買い手市場の頃。
今はすぐに辞められてしまいます。
しかし、本当のことを書くとしょぼい会社と思われるという恐怖感もあります。
人手不足にあえぐ会社としては、必要悪。
法改正を睨み、記載内容は正直にすべき。それはわかっているのだが……。
そんなジレンマに陥って右往左往しているあなたの姿が見えます。
求人媒体をハローワークや求人誌の中だけに絞っていて、いいのでしょうか。
虚偽や粉飾をしないと勝てない状況が健全だと思いますか。
少し発想を変え、今まで導入していなかった、効果的な求人方法を模索してみてはいかがでしょう。
その手段を使えば、あなたの会社がとても正直であることも訴求することが可能です。
本当の魅力をアピールすることで、ホワイト企業のイメージを付加されます。
まさかそんな手段があるの?と疑われる方はぜひ、以下で紹介している書籍をご覧ください。