人件費高騰で中小企業の経営が圧迫している原因と対策

人手不足の影響により、人材を確保するためには他社より好待遇な労働条件を提示せざるを得ない状況が続き人件費が高騰しています。特に中小企業においては、それが経営の負担となり、最悪の事態に陥るケースも多数報告されています。

このページでは人件費高騰の原因、深刻な状況に陥っている業界とそれによって生じている悪影響、そしてその改善策を解説していきたいと思います。

人件費が高騰している原因とは?

まずはなぜ、人件費が高騰しているのか?その原因を解明したいと思います。

一言で言ってしまえば、求人に雇用したい人材が集まらないからです。求人広告を打ってもなかなか応募がない。応募があっても採用までに至らない──こんな状況がここ数年続いています。

人材を集められなければ、会社存続の危機ですので、人を集めるための対策を練ることになります。そのため、給料を上げたり、福利厚生を充実させる対策をとることになりますが、これは競合他社も同じことを考えます。競合他社が良い条件で募集をかけていれば、それに負けまいとより良い条件にしていきます。それにより、どんどん人件費が高騰し続けているという図式になっています。価格競争とは逆の現象が起きているようなものです。

では、そもそもなぜ、今の日本は人手不足に陥っている企業が増えているのか、その原因を探っていきたいと思います。

人手不足3つの主原因

理由1:労働力人口の減少

労働力人口というのは(15〜64歳)の年代を指します。団塊の世代の退職、進む少子高齢化によって労働力人口に当たる世代が大幅に減ってきているわけです。

理由2:高い有効求人倍率

有効求人倍率は就職のしやすさを表す数字で、ずっと1.0を上回っている状況が続いています。つまり、求人側にとっては競合が多く人手の奪い合いになっている状態です。

理由3:技能を持った人間の不足

日本の産業を支えていた「個人の技術力」よりも効率化とコスト減を優先させるようになったため、技能・技術を持った労働者が育たなくなりました。「人手不足ではなく人材不足」とも言われるゆえんです。

求人の目的は即戦力となり得る優秀な人材を採用することです。でも、数少ない優秀な人材は知名度の高い企業や広告のうまい会社にとられてしまい、質の低い人材からの応募では、採用できない日々が続いている企業は非常に多いです。


このように、人件費高騰を招いた根本的な原因は、人手不足にありますが、この問題はどうすることもできません。

コントロールできない問題は受け入れて、コントロールできる分野で解決策を練る必要があります。

ある程度の人件費高騰は避けられないかもしれませんが、条件面以外でどうすれば求職者に振り向いてもらえるかを考えて対策を練っていく必要があります。

でも、もし、何の対策もとらずに今の流れに身を任せていたら、どうなってしまうのかをこれからご紹介していきます。

「人件費倒産」で悲鳴を上げる建設・外食・IT業界

人件費の高騰が大きな影響を与えている代表的な業界が、建設・外食・ITの3つです。

「人件費倒産」と言われる、人件費が原因となって倒産に至るケースが多いのもこれらの業界です。これは賃金水準の高騰により商品やサービスの開発に必要な人材を集めることができず、経営の継続ができなくなるというものです。

業界をひとつずつ見ていきましょう。

建設業

このグラフは、東京都における公共工事の設計労務単価の推移です。

東京都の公共工事設計労務単価推移

国土交通省 土地・建設産業局建設市場整備課発表 2015年度公共工事設計労務単価(基準額)より

5年前に比べ大幅に上昇しているのがおわかりでしょう。
平成28年度では特殊作業員が22,700円、普通作業員が19,800円に上昇しています。

ちなみに茨城県でも

  • 平成27年度:特殊作業員19,400円 普通作業員17,200円
  • 平成28年度:特殊作業員20,200円 普通作業員18,700円

と、同じく上昇しました。これは全国的な傾向です。

建設業で人件費が高騰している理由は、民主党政権時における公共事業の削減で就業者数が減少したところに東日本大震災の復旧工事や東京オリンピックに向けた需要拡大が起こり、決定的に人手が足りなくなったことにあります。

これに追い打ちをかけるように、2015年度から厚生労働省による労務費の改定により約2%の賃金アップが確定しました。企業としてはさらに人件費によって苦しむことになりました。

人件費高騰は、大手ゼネコンはともかく中小建設会社にとって深刻な問題です。仕事はあっても人が集まらず受けられない。人材を集めるために好待遇の労働条件にすると利益の減少につながる。

これによって倒産に追い込まれるケースも増加しています。

2014年上半期には、「求人難」「人件費の上昇」が原因で倒産した企業の半分が建設業でした。

外食

こちらも慢性的な人手不足が続いている業界です。

人件費の高騰をメニューの価格に転嫁できればよいのですが、低価格を売り物にしているなど、それができにくい業態であれば深刻です。

また、もう1つの理由として外食以外の業界に人材が流出してしまうことも挙げられます。コンビニエンスストアが近隣にできると、そちらに転職してしまうのです。

待遇が同じぐらいなら飲食店で働くよりもコンビニの店員の方が仕事が楽、という意識があるからです。

この場合も、従業員をつなぎ止めておくためには待遇改善が必須で、それが利益を蝕み、経営を圧迫する原因となります。

IT

社員の人件費は、固定費用負担となります。これが経営を圧迫して倒産に至るケースが多いのが、IT業界です。

人件費の増加に見合った売上が見込めない場合、この固定費用が重い負担となり倒産してしまいます。

多額の開発費用が必要となるIT企業のスタートアップに多く見られます。開発費用の大半はエンジニアの人件費であるためです。

起業したもののサービスや商品を売り出すまでには、何ヶ月も(ときには何年も)必要です。当然、その期間は売上がありません。

その間に資本を食いつぶしてしまうのです。追加の出資者が思うように集まらない危険性もあり、倒産しか選択肢がない、ということになりかねません。

人員の移動が多いのはIT業界の常であり、スタッフは簡単に転職してしまうこともそれに拍車をかけています。

最悪の結果にならないため、人件費高騰による倒産を防ぐ方法

人件費はできるだけかけたくない、というのは経営者側のホンネですよね。

困った社長

しかし、他社に人材を持っていかれてしまうのであれば、人件費を上げざるを得ない。

かと言って、人件費を上げ続けていけば、人件費倒産の危険性が強まる。

人件費高騰による「人件費倒産」を防ぐためにはどうしたらよいのでしょうか。ここでは、人件費高騰による倒産を防ぐ方法をご紹介していきます。

人件費以外の出費を抑制

徹底的なコスト見直しにより、人件費への原資増加を図ります。

交通費、交際費、設備費などを詳細にチェックし、無駄と思われる部分をどんどんカットしていくのが近道です。既存社員から不満が寄せられるかもしれませんが、待遇改善が目標ですから社内でのコンセンサスは取りやすいでしょう。

業務の改善による生産性の向上

コスト見直しと同じく、少しでも生産性を上げ業務の無駄を省くことが必要です。

作業工程や営業方法、経理作業や報告書のIT化など思い付く限りのチェックポイントを列挙してみてください。

また、高付加価値商品やサービスの開発などで高収益性のビジネスモデルを構築することも有効です。

機械化や外注化の推進

今まで人手に頼ってきた作業を機械化することも手段のひとつです。

また、社内で行っていた業務を外注化し、省力化と共に人件費の節減につなげることもできます。

さらに、スタートアップしたばかりで売上がないベンチャー企業でも、他社からの下請け業務を行うことで収益をあげることもできます。

最も効果的な対策は求人に力を入れること

もっとも効果的な対策は求人に力を入れることです。

上記で提案している対策は内部体制を大きく変えたり、多額な初期投資が必要なケースが多く、ハードルが高いです。

であれば、リスクが全くない求人活動の改善に先に取り組むべきです。

そもそも、求人に応募が集まらない原因は条件が悪いからとは言い切れません。他の要因で判断しているケースも多々あります。例えば、仕事のやりがいや働きやすさを一番考慮に入れて検討している求職者がたくさんいることは事実です。

ですから、今の会社の強みを活かして情報発信していけば、その強みに共感して働きたい!と思ってくれる求職者が現れる可能性はあります。つまり、待遇改善しなくても、優秀な人材を集められる可能性はまだ残っているということです。

なぜ、こう強く言えるのかと言いますと、求人媒体に頼った求人活動をしている企業が大半を占めているからです。今はもう昔のような成果を求人媒体には見込めません。多額のお金を無駄にすることに繋がるだけです。詳しくは求人に応募が集まらなくなった3つの理由と根本的な解決策をご覧ください。

ですから、まず先に手をつけることは求人に力を入れ、他社がまだ取り組んでいない効果的な手法に先に取り組むことです。

一通りやった上でそれでもダメな場合は、内部を改善していくといったプロセスで取り組んでいった方がリスクを最小限で抑えた上で最大の成果が得られるようになるかと思います。

5 件のコメント

  • 人件費高騰で中小企業の経営圧迫ってとても良いニュースですよね。
    うちの会社でも以前は、辞めたい奴はなんぼでも辞めたらえーねん、代わりはなんぼでもおるわ、っていってました。
    最近はさすがにいわなくなりましたが。
    人間を大切にしない会社なんて潰れれば良いし、人手不足にならないと従業員を大切にしない。
    人手不足にならないと我々の給料も上がらないし、上がらなければ社会不安も増大して不幸な社会になります。
    給料が上がり人々が幸せになる為にも、もっともっと人手不足になって欲しいと思います。

  • まあ、仕事増やして人数削って負担(勤務時間、仕事量)が増える。人が辞めていい人材にこだわって、なかなか採用せず更に人が辞めていく・・・。といったパターンですよね中小企業は。

    ある程度は育成を考えて多少採用のハードルを下げてでも人を集めないと今後、社会の高齢化が進んだ際に窮地に陥る会社が増えそうです。即戦力とは言うけどある意味現実は甘くない。
    後は募集条件ですかね。その内容で記載する際に、身内や親友の子供にその会社をお勧め出来ますか?って思わず聞きたくなる条件の会社も多々あります。

    人件費を大幅に削って何とか黒字になってる時点でもう経営は成り立ってない気がします。そこがもうその会社の限界だから、もっといい仕事を取ってくるか規模を縮小すべきかと。結果的にブラック企業と呼ばれたり、労働時間等で裁判沙汰やテレビで取り上げられる形になるよりはいいと思います。

  • IT関連にいますが、上記の「人件費の増加に見合った売上が見込めない場合、この固定費用が重い負担となり倒産してしまいます」は確かに考えられますが、日本の場合、エンドユーザが受注価格に似合わない品質の要求を突きつけるケースが多く、請求も出来ずに泣き寝入りになり、結果的に赤字につながるケースもあります。 このことから、IT業界は単価が安くなっていくばかりで、割に合わないことをしなければならない悪い慣習が少なからずあります。 WindowsのOSでもそうですが、最初は100%完璧といえるものは作れず、日々のバグフィックスや利用者の情報を基により良い改修していく事に100%に近いOSが出来ていくものと思っております。 IT業界もエンドユーザの責任の基で下請けにすべて品質を求めてやらせるのではなく、エンドユーザ自身で改修していく能力を身に着けていく必要があると思います。 あとは、価格破壊も大きな要因と思います。

  • 人件費の高騰により、小売業・飲食業・サービス業は多大な影響を受けるでしょう。
    コメントをしている方は、それらの会社の決算内容を分かっているのですか?
    従業員1人あたりの粗利が月幾らなのかを?労働者1人の年間収入の中央値は実際のところ350万円くらいです。企業が1人あたり支払うコストは社会保険料約15%+350万円(実際の中央値)+退職金(かなり安く見積もって年間20万円)=422.5万円 従業員の1人あたりの計算は正社員は1人1名、パートは2人で1人と計算すると1人あたりの粗利(生産性)がでてくる。
    昔の中小企業で最低1人60万円、利益を出すには100万円程度が必要と思われる。
    1人あたり月100万円以上の粗利を出している中小企業のサービス業・飲食業等は全体のどれだけありますか?これらの産業はパート・アルバイトでの人件費抑制でしか殆どが始めから成り立たない構造である。日本のサービス業は過剰サービス、過剰出店であると考える。
    人件費高騰が高騰すれば、サービスの見直し・閉店・オペレーションの見直し・採用の抑制で対応するしかないであろう。
    今のようなサービスは諦める事である。

  • 中小企業経営層にいますが、国内製造業は国内同業者がコンペティターでない。
    繊維業界に18年いて経営層に近い位置だったが、90年代の経済政策は外資の導入、デフレ対策誘導で政策の失敗を糊塗するもの。
    及び、それを産業界に飲ませるための派遣法の改正で、海外企業との価格競争力維持の為の低賃金化。
    国内賃金を上昇させれば、以前は中国、現在は東南アジアに企業や調達先が移行するだけ。
    客先からの価格交渉は、ほぼ指し値で、海外工場での生産単価を求めてくる。
    これで人件費を上げるのは自殺行為。
    結局、海外工場を建てて、海外シフトするしかないって現実。

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