厚生労働省は、2025年度に介護職員が全国で38万人不足するという推計を発表しました。
ちょうど、団塊の世代が75歳以上になる頃ですから、少子高齢化がかなり進んでいることになります。高齢者が増えて介護が必要な人はたくさん増えているのに、介護してくれる人が減っているのですから、事態はとても深刻です。
2025年に必要な介護職員は253万人と言われていますが、今のペースでは215万人強しか確保できません。ですから、38万人は不足するというわけです。
介護施設を運営されている方にとっては、現状でも人手不足で苦しんでいるのに、今後さらに人が集まらなくなります。
介護は親がいる以上、誰もがいつか直面する事です。これはもう施設運営者や国だけの問題ではなく、国民全員が考えなければならない重要な課題と言えるのではないでしょうか。
介護職員の需要・供給見込みと充足率
2017年度 | 2020年度 | 2025年度 | |
需要見込み | 207万8300人 | 225万6854人 | 252万9743人 |
供給見込み | 195万3627人 | 205万6654人 | 215万2379人 |
充足率 | 94.0% | 91.1% | 85.1% |
不足介護職員 | 12万4673人 | 20万200人 | 37万7364人 |
厚生労働省の調査による
こちらの表をご覧頂ければ明解ですが、少子高齢化による影響をもろに受けるのが介護業界であることが分かります。
では、介護職員の人手不足が進行していくとどのような影響があるのかを深く解説していきたいと思います。
介護職の人手不足が及ぼす5つの深刻な問題
1.一人ひとりに目が行き届かない介護になる
介護職員が少なくなればなるほど、当然1人でたくさんの要介護者を看なければなりません。よって、一人ひとりの介護に充分な時間が割けなくなります。
こうなると満足な介護とはかけ離れた「やっつけ」仕事となってしまいます。要介護者の生活の質が低下することは必至です。
2.介護職員は過重労働に陥り離職率がさらに高まる
12連勤程度は当たり前、深夜の呼び出しもしばしば、休みもろくに取れない……介護の現場は重労働として知られています。
同じ年代で別の業界で働く人と比べると、責任は重くはるかに労働量がかさんでいます。介護職に燃え尽きてしまい、もう介護職はたくさんとばかりに離職していってしまいます。
3.低賃金ゆえに他への転職が増える
介護業界の平均月額給与は、全産業の平均より10万円安いという厚労省の調査があります。全産業の32万円に対し、介護業界は24万円弱。この月収では家族を養うこともままなりません。
希望に満ちて介護士になったのに、厳しい現実のため離れていってしまうケースは普通にあります。
4.介護職自体が高齢化する
重労働・低賃金であることが知れ渡ると、この業界を目指そうという若い人々が減っていきます。ただでさえ若年層が減り続ける日本の人口構成、そもそも少ない若い労働力がわざわざ過酷な業界へやって来るとは思えません。
介護職員はそのまま持ち上がり、高齢化。介護施設での「老老介護」が珍しくなくなります。
5.富裕層以外は充分な介護が受けられなくなる
介護職員をつなぎ止めるために高給を提示できる施設は限られています。大手のチェーン施設以外に、入居者の負担額が大きいいわゆる高級介護施設に人材が集まってしまいます。
そんな施設に入居できるのは、富裕層がメインとなります。
それ以外の層は生活の質が低い施設でしか介護を受けられない、あるいは介護そのものが受けられない状況にもなりかねません。
介護職離れが進行する5つの理由とは?
ではなぜ、深刻な影響を与えるまでに介護職離れが進んでしまったのでしょうか。さまざまな理由が考えられますが、おおむね次の4つに集約されます。
1.とにかく忙しすぎる
卵が先か鶏が先かになってしまいますが、現在の介護業界は……
人手が足りない⇒負担が増える⇒自分の時間がなくなる⇒耐えかねて退職⇒人手が足りない……
という負のスパイラルに陥っています。
介護職には勉強することも山積みで、そちらに割く時間も足りなくなっています。
2.低賃金、重労働
もしかしたらこれが一番大きな原因なのかもしれませんが、労働のきつさに見合った賃金が支払われない。
前項の深刻な影響にも関係してきますが、介護業界の手取り賃金の低さがそれを象徴しています。
また、サービス残業も日常化しています。こういった低い人件費に抑えておかないと事業自体が成り立たないという経営的な事情もあります。
3.リスクが高い
高齢者や身体の不自由な方のお世話をするのが介護職。介護対象者の重症度はそれぞれ異なりますが、どんな段階であれ人の命を預かる職業です。万が一、事故が発生してしまったら、その責任は担当者の上にのしかかります。手が回らなかった、目が行き届かなかったのは人手不足のせい、と言うわけにはいきません。この状況下で人命を預かるのはリスクが高すぎると感じている介護職員は多いのです。
4.仕事へのリスペクトがない
介護職を志す人々には、誰かの役に立ちたい、高齢者に喜んでいただきたい、という動機が多いでしょう。しかし現場では乱暴な言葉を浴びせられたり、わがままに振る舞われたりといった場面によく遭遇します。
身体が思うように動かなくなったことへの悔しさや苛立ち、あるいは認知症の症状で、ということが原因です。
わかってはいるものの、自分の志をまったく斟酌してくれない介護対象者には失望を抱いてしまいます。
ここ数年は、経済的な理由よりも介護という仕事から受けるストレスが原因で職を離れてしまうケースが目立ってきました。
介護業界の人手不足を解決するための国の対策
介護業界の人手不足は、どうやったら改善できるか。超高齢社会の日本で、若い層がこの業界に入ってきてくれるのか……。
絶望的な意見はよく見かけられますが、国をあげて介護の問題に取り組み、今までもいくつか解決策が挙げられています。
政府は、「離職した介護人材の呼び戻し」「新規参入促進」「離職防止・定着促進」という3つの柱を、平成27年度補正予算の中で掲げています。
介護のロボット化
また、政府は同じく平成27年に掲げた「ロボット戦略」の中で「介護のロボット化」を謳っています。
- 歩行支援
- 排泄支援
- 認知症の人の見守り
- ベッドからの移し替え支援
- 入浴支援
という5つの作業を重点分野としました。
介護職が腰を痛めることがないよう、配慮するものです。
アジアの介護施設でのケア
さらに、物価の安いアジアの国に介護施設を建設し、そこでケアを行うアイデアもあります。
- 富裕層でなくても高レベルの介護生活を送ることができる
- 日本人介護職員は現地のリーダーとなれる
- 現地の就業支援になる
- 見舞いに訪れる家族による観光収入が見込める
などといったメリットが挙げられます。
これら、ある程度の時間がかかる施策も視野に入れながら、あなたの施設はどうやったら短期間で介護職員の人手不足を解消できるかを考えてみましょう。
介護職の人手不足を解消するための3つの有効策
給与体系を明確化する
同年代で他の職種に就いている人と比べると、明らかに低いケースが多い介護業界。そればかりに目が行って、一律に低賃金というレッテルが貼られてしまっています。
ならば、職階と資格に応じた給与ランクをしっかりと明示してみます。
介護技能や知識を確かめる独自の試験を実施し、それぞれのランクで給与金額を示すなどの方法があります。
勤務体系の透明化とサービス残業の撤廃
どこからどこまでが自分の業務範囲かが不明瞭になりがちなのが、介護の仕事です。
上記のような職場内の職階に応じてどこまでが責任範囲かが明確になれば、「これ以上は自分の仕事ではない」としてだらだらと別の作業に引っぱられることは避けられます。
これは上司にも徹底しておく必要があります。
また、サービス残業は撤廃し、時間外給与は決められた分を支払う。人件費は上昇しますが、離職率が下がり求人にかかる費用が節約できるわけです。
あなたの施設の評判もホワイトとなり、就職希望者が増加するという正のスパイラルに持って行くことができます。
やりがいを実現する
介護職に就きたいと考えた人は、「人の役に立ちたい」「喜ばれたい」という動機を持っています。しかし介護の現場に接してみてその理想だけではやっていけないことを実感します。
そのギャップに直面して離職を考える、ということは先述の通りです。
ならば、当初抱いていた理想を実現させてあげればいいのです。
その人が当初持っていた理想は何か、何をやりがいと感じているのか。家族の笑顔が見たいと思っていたならば訪問介護の部門に振り向ける。
高齢者に満足のいく介護を提供したいと思っているなら機能訓練のトレーニングを受けさせてみる。
こういった個人個人のやりがいを把握し、その実現を支援する職場であれば長い勤続年数を期待することができるでしょう。
さて、このような改善を進めたあなたの介護施設を、優秀な人材に対してどのように知らしめるかが、次の重要な課題です。
この素晴らしい職場をアピールするのに、ありふれた求人媒体に頼っていては今後はもう十分な成果を出せないと思っていた方が無難です。
どこも人が集まらないため、求人媒体にはたくさんの介護施設が求人を出しています。そんな中に求人を出したところで埋もれてしまうだけですし、他施設との差別化を図ることもできません。
あなたの介護施設が素晴らしい取り組みをしているのであれば、媒体に頼らずに独自に情報発信をしていく必要があります。
つまり、応募が集まる質の高い採用サイトを作成して、リスティング広告で独自に求人広告を出すのです。
これにより、他施設との差別化を大きくとれるようになります。
求人は今後さらに熾烈な求職者の奪い合いとなります。他の施設で採用が決まったら、もうあなたのところに来てくれることはありません。
ですから、最も力を入れて取り組まなければならない活動が求人活動になるかと思います。
数少ない求職者の中で優秀な求職者が興味を持ってくれるような情報発信をしていくこと。この活動に真剣に取り組むかどうかが、今後、厳しい介護業界を生き抜くための分かれ道になるのではないかと私は感じています。